元フジテレビ「渡邊渚」90分インタビューで語った「ウソをつきたくない」という言葉の真意

今年2月に出版したフォトエッセーが大ヒットとなった、フリーの渡邊渚アナウンサー(27)。フジテレビアナウンサー時代にPTSDに苦しみ、会社をやめざるを得なくなった苦しい経験を前向きなメッセージに変え、多くの人の共感を得た。ネットニュースにも頻繁に取り上げられる「時の人」となったが、本人は今の状況をどう感じているのか。本音を語ってもらった。

インタビューを行ったのは、3月には珍しく雪が降った日だった。

「早めに家を出たら、ちょっと早めに着いちゃいました」

1人で待ち合わせ場所にやってきた元フジテレビアナウンサーの渡邉渚さんは明るい声で笑った。その笑顔から、渡邊さんの「心」は少しずつ回復している様子が見て取れた。

今年2月に出版された初の著書「透明を満たす」(講談社)は、アマゾンのカスタマーレビューが1548個(3月25日現在)にのぼり、大きな反響を呼んでいる。売り上げも好調だと聞くが、実際はどうなのか。

「書籍のほうは1月中旬から、予約注文が跳ね上がりました。1月末に書店に搬入発売したのですが、予約の段階で、すでに3刷りの発売前重版をかけていました。そして、2月に入って4刷りになりました。累計部数も業界的にみれば上々なのですが、Kindleが書籍の部数を圧倒的に上回って売れています。売れ方も含めて異例と言っていいと思います」(講談社関係者)

渡邊さんはSNSの投稿がすぐネットニュースになるなど、その発言が最も注目される女性の1人になった。一躍、「時の人」となった今の状況を渡邊さんはどう感じているのか。

「びっくりしています。エッセーを書き始めた頃は、こんなに読んでくださる人がいるとは思っていなかったんです。だから、アマゾンのレビューを読むと、すごく励まされます。私が伝わってほしいなと思っていたことが、ちゃんと届いているんだって。私には『自分がこうなっていてほしい』という未来があるのですが、その1歩が踏み出せたかなと思っています」

■地球上のどこかに味方はいる

フォトエッセーの中には「夢を持つこと──たとえ持っていなくても」という項目がある。筆者がそのフレーズがとても印象的だったと伝えると、渡邊さんはこう答えた。

「本の中では一番短いトピックなのですが、これは絶対に入れようと思っていたんです。私は、自分が抱いていた夢や目標が、ある日突然、壊れて、それを失うという経験をしました。どうやって生きていったらいいかわからくなって、自分の存在意義がなくなったように感じた時期もありました。だから、夢はあるだけで素晴らしいもので、自分が頑張れるエネルギーになるものだと今夢を追いかけている人の背中を押したかった。また、もしそれがなかったり、なくなったりしても、大丈夫だよと。夢や目標がなくても焦らなくていい、ないことを引け目に感じる必要はないと伝えたかったんです。本の中でもここは特にメッセージを込めた箇所です」

2023年6月、渡邊さんは後に大きなトラウマとなる出来事を体験する。それにより体調を崩し、同年7月に都内病院の消化器内科に入院した。心身に不調をきたし、食べ物も喉を通らなくなった。

「コロナの時期でもあったので、基本、面会はできませんでした。それでも(芸人の)キャイーンの天野ひろゆきさんは連絡をくださったことは本当に感謝しています」

自身が予期せぬ出来事で傷つけられ、精神科での入院生活を余儀なくされた日々についてこう振り返った。

「精神科にかかるということがイコール、心が弱い人と受け取られる風潮は間違っていると思います。私は精神科の担当医からPTSDと診断されましたが、それは心が弱いからじゃなく、脳にダメージを受けている状態なんです。わかりやすく言えば、脳の損傷なんです。だから、心の不調というよりも、脳の病気として理解していただけたらうれしいです」

だからこそ、今悩んでいる人たちにはこう伝えたいという。

「もちろん病院にかかるのが一番簡単ですが、医師だけが病気を治すわけではありません。周りにいる人たちの言葉で救われることもあるんです。自分には友達なんていないと思っている人もいるかもしれませんが、実は大切に思ってくれている人がいることもあります。私自身もあまり友達はいない方だと思っていたんですけど、それは私が周りを見てなかっただけだと気づきました。ちゃんと向き合ってみたら、大切に思ってくれる人はいるんですよね。地球上のどこかに絶対に自分の味方はいる。そう信じてほしいなって思います」

■元フジのスタッフとも交流はある

フジテレビアナウンサー時代は「めざましテレビ」の情報キャスターやバラエティー番組の進行など責任のある仕事を任され、分刻みで時間に追われていたという渡邊さん。食レポの仕事を大量にこなしていた時期もあった。

「週に3日、食レポのお仕事をしていた時期もあります。1日にラーメン6杯とか食べた日もありました。だから、必然的に太っちゃいますよね(笑)。お店の人の手前、残すわけにもいかないですし。私は食レポでもウソをつきたくなかったので、おいしくないときは『おいしい』とは言わなかったです。食感や具材の特徴を見つけてそれを表現するだけに留めていました。おいしくないものを『おいしい』と言うのは、やっぱり視聴者を裏切ることになると思っています。食レポに限らず、事件、事故の現場レポートでも、ディレクターやカメラマンから『いい絵がほしい』と注文されても、ウソをつかないことは徹底していました」

渡邊さんはフジテレビをやめた後も、かつての同僚たちとつながっているという。

「最初は会社をやめたら、もうフジテレビの人とは誰とも交流がなくなるんだろうなと思っていたんですけど、意外と交流は続いていますし、今でも仲良くしています。私の場合はアナウンサーよりも、番組スタッフさんと仲が良くて、食レポを一緒にやっていたスタッフさんたちとは今でも会いますし、カメラマンや技術さんとも、ご飯を食べに行ったりしているんですよ」

渡邊さんは今、新しい試みを始めている。今年2月から有料の公式メンバーシップ「Lighthouse」を開設した。会員になると「会員限定エッセー」「会員限定Instagramアカウントへの招待」「イベントチケット・限定グッズの先行/優待販売」「会員限定お悩み相談」の特典が受けられるというものだが、開設の経緯をこう語る。

「最初はインスタのサブスクを始めたんですが、会員がどんどん増えてしまい、コメントの数も多すぎて読めず、コミュニケーションが取りづらくなってしまいました。そのため、メンバーシップにしてきちんと対応したいと思ったんです。メンバーシップに入ってくださっている人の中には、うつ病などメンタルに関わる病気を抱えている方もいて、そこでお悩み相談を受けることもあります。さまざまな生きづらさと向き合っている方のお話を聞くことで、これから自分がどんな活動をするべきなのか、ヒントにもなっています。私は医療従事者ではないし、病気の詳しいことはわからないけれど、どうしたらちょっとでも心が楽に生きていけるかということは、自分の体験から言うことはできます。正解はないと思いますが、メンバーシップはファミリーみたいな温かい空間になっています」

■イケメンのマネジャーなんていません(笑)

こうした新しい試みが話題になることも多い渡邊さんに対して、誰かがバックについてコントロールしているのでは、と見る向きもある。だが、それに対してはきっぱりと反論する。

「本当にいろいろ言われるんですよ、黒幕がいるんだろうとか。この前は、イケメン敏腕マネジャーがいるとか書かれましたが、イケメンも、マネジャーもいないです(苦笑)。全部自分でやっています。だから、今日も1人でやって来ましたよね」

「ウソが嫌い」と語る渡邊さんはまっすぐな目でそう話す。心身ともに大変な日々を乗り越えた今は、毎日、少しでも楽しいことを見つけながら暮らしているという。

「好きなアニメを見ながら『しゃりもに』(ブルボン)というグミを食べたり、スーパーで両手にたくさんのグミを買っている時が一番テンションが上がります(笑)。私は生活費にはあまりお金を使わないタイプなので、月々の電気代は1980円と基本料金並みです。お金をかけて買うのは、アクセサリーくらいです。女友達と2人でアクセサリーショップ回りをしているときは楽しいです。仕事をがんばった自分へのプレゼントに今度は何を買おうかなとか。これは渋谷で買った2900円のイヤリングなんですよ。落としてもいいように(笑)」

そう楽しそうに話す渡邊さんの笑顔は、やはり誰かを救う力を持っていると思わせる魅力があった。

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